よく「うつは心の風邪」と言われますが、これは間違えていると思います。この本でも指摘されておりますが、風邪のように2~3日薬を飲んでゆっくり休めば治るものではありません。私は「うつは心の癌」に近いものではないか、と思っています。もちろん未だ5年生存率の低い癌と比較するのは問題かも知れませんが、1日仕事を休むか休まないかの「風邪」に例えるのは大きな間違いだと思っております。
私が過去出会ったうつ病の方や適応障害等の方々を見ていると「うつ」が癌と同じ類の難しさを抱えていると思うのは、以下のような共通点があるように感じるからです。
1. 最悪の場合、死亡することがある
2. 初期症状が自覚しにくい
3. 自覚した時には相当進行しており、すぐに仕事を休職する(寝たきりになる)可能性がある
→昨日まで普通に仕事をしていて、翌日午前中に体調が優れないといって早退した後、1年以上休職になった人もいます。
4. すべての人を完治できる医療技術が現時点で確立できていない
5. 治療が長期化する
6. 再発する
7. クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)に大きな影響を与える
などです。とても風邪といえる代物ではありません。
もちろん、高度な専門医にかかってきちんと「治療」する必要があります。
この著書は、筆者の経験を小説風に書かれていますので大変読みやすくなっています。周りでうつ病の方がでたら、まず手にとってお読みいただくと良いのではないかと思います。うつ病の人にこう接しなさい、ではなく、うつ病になるとこうなるのだ、ということが克明に書かれています。これは逆に言えば周りの人がどうすれば良いのか、とい答えでもあります。
薬を飲まないで過ごした場合に、どのように悪化していくのかも日を追うように丁寧に記載されており、小説を読むようにハラハラ・ドキドキしながら読み進めました。筆者の場合、薬を飲まないで治そうとして結局救急車で運ばれ入院することになるのですが、専門医の治療を受けないことも危険性も実体験で書かれているので、専門書よりははるかにリアルに理解できます。
良くサラリーマンの方が心療内科にかからずに頑張って勤め続けてある日、バタッと会社に来なくなりますが、それがどのような状態で推移して行いったのかも、この本を読めば分かるようになります。そいう意味では全ての管理職(上司)の方にも、ぜひお読み頂きたい一冊です。ある程度の会社規模の人事部や総務部でメンタルヘルスをご専門に扱われている方は、ある程度経験があり、うつ病の方に接するにも慣れておられると思います。これに対して、一般の管理職の方は、会社で行われる数時間のメンタルヘルス教育程度でなかなか具体的な接し方が分からないのではないでしょうか。恐る恐る休職中の部下に接するしかない、と感じられている方も、研修などで学ぶ「教科書」と違う生の体験談を読んで頂くことでご自身の成長にもつながるのではないかと思っております。
ある日、いきなり同僚がうつ病で会社に来なくなる、自分が限界点を超えてしまって鬱病による休職になる、ということが日常で見られるようになってきました。うつ病が少しでも減るように願ってなりません。